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これは「心臓に雑音があると言われたら(記2011年9月)」が、2017,10月にupした「犬の慢性心不全(犬僧帽弁閉鎖不全症)治療の新しい方向(記2017年10月)」に伴い内容的に変更が必要なので、現時点における最新版として改めて新しく書いたものです。
つまり犬の心不全の治療に対して時代が動いたということで、何事もアンテナ張って新しい情報を【知っ得】って大事だと思います。
では本編
◆改訂・犬の心臓に「心雑音=雑音がある」と言われたら(記2017.12月)
獣医師に、心臓(心音)を聴診して雑音があると言われたら、犬の心臓内で血液の乱流が生じているのは事実です。
この血液乱流音を「心雑音」と表現します。
獣医師は心雑音を聴取したら、犬の年齢・聴診部位・音質・音量等から疾患を想定し診断をすすめます。
今回の心雑音の説明は、犬の弁膜症についてです。
犬の弁膜症の中には左房室弁閉鎖不全症というものが有り、犬左房室弁閉鎖不全症=犬僧帽弁閉鎖不全症であり、その中で加齢が原因でなった場合を犬慢性心不全と言います。
「犬僧帽弁閉鎖不全症の症状」を軽い症状から並べると
1、無症状であるが、心雑音は有る
2、運動不耐性を示す(例:室内犬なら飼主様帰宅時等での出迎え時の歩行スピードが遅くなる・・・加齢?と思ってしまうような事柄、人間なら動悸・息切れには救心みたいな~)
3、発咳
4、呼吸困難(肺水腫)
と、徐々に進行します。
「発咳の原因」をザックリわかりやすく順を追って書くと
イ、犬が弁膜症を発症する
ロ、つまり心臓内の弁の閉鎖不全(弁がキッチリ閉まらない状態)が起きる
ハ、心臓内の弁の隙間から血液が逆流する
ニ、その逆流分が心臓の中で過剰量となる(正常な心臓の血液容量より多くなってしまう)
ホ、したがって心臓自体が過剰に膨らんでしまう=この状態を心肥大もしくは心拡大という
ヘ、犬の体の解剖学的構造上この心臓自体の膨らみが気道を圧迫する
ト、気道(呼吸をする際の空気の通り道)を大きくなった心臓が、圧迫・刺激することにより咳をする
これが犬僧帽弁閉鎖不全症を原因とする発咳の初期症状のカラクリ
「心雑音の音量」
心不全の重症度ならびに心臓の左房室および左心室の拡大の程度は、おおむね正の相関関係にあると考えられています=心雑音の音量は心臓の具合の悪さと、心臓の膨らみ具合とおおむね等しく推移すると考えられています。
したがって定期的な獣医師による聴診は大事です。
・・・・・・・・・ちょっと横道に逸れますが
特に、“無症状であるが心雑音は有る”の犬さん達は、見た目元気なだけについつい診察のタイミングが間遠になりがちになる場合もあるのでは?
定期的な診察は、これって咳かしらん、とかの迷いも相談できるし、診察台で興奮してしまったり震えてしまうタイプの犬さん達は、少しでも診察に慣れておく事も大切と思います。
診察や診察台、動物病院に慣れておくと、より良い聴診や、より良い検査(わかりやい例としては心電図検査ですね)にもつながります。
すみません、元に戻ります・・・・・・・・・
聴診すると“かすかな心雑音”は聞こえるが、全く元気、もちろん発咳もない場合。
このパターンの病態から診させていただければ、獣医師としては安心かつ治療もしっかりできるのですが、飼主様にとっては、説明を聞いて不安材料が増えただけ・・・となる感も。
聴診すると“大きな心雑音”を確認したが、一般状態は良好である場合。
様子により次はレントゲン検査を提案し、心臓肥大(拡大)の有無をチェックします。
このチェックは現状での治療の必要性の有無を判定することを目的として、
アメリカ獣医内科学会(ACVIM)が提唱する僧帽弁閉鎖不全症のステージ分類に当てはめるためです。
*心臓肥大(拡大)が「無」の場合【ACVIM分類:ステージB1】
経過観察とし半年に1回は「必ず」聴診等のチェック、または可能ならばサプリメント(コエンザイムQ10)の内服開始。
サプリメントなので、良いことがある可能性は有るが悪いことは無いですし、「将来の投薬行為練習」としても最適ですのでお勧めです。
*心臓肥大(拡大)が「有り」の場合【ACVIM分類:ステージB2】
獣医心臓内科医でも治療意見が割れていたのですが、2016年9月に発表された論文EPIC study(Evaluation of Pimobendan In dogs with Cardiomegaly の略語)によって風向きが変わりつつあります。
(EPIC study論文内容の超ザックリ説明として、犬の慢性心不全(犬僧帽弁閉鎖不全症)治療の新しい方向を2017,10月にup、こちらは私の文なのでとっつきやすいのではと思います。EPIC studyとは、心拡大を有する無症状の症例【ACVIM分類:ステージB2】に対してピモペンダン(薬剤名)投与により心不全を呈するまでの無症状の期間を延長することを証明した論文です)
ドン・ペット・クリニックでは、EPIC studyを含みつつ状況により投薬開始を提案します。
EPIC study登場以前は、「ACE阻害薬」投与が、心拡大を有する無症状の症例に対して有効性を見出すか?でした。
理論上では有効と考えられていますが、学会報告(SVEP試験・VetProof試験)ではACE阻害薬を投与することで心不全を呈するまでの無症状の期間を延長させることはできなかったとの報告もあり、実際の現場では獣医師のムンテラまたはインフォームドコンセントに投薬はゆだねられていました。
ドン・ペット・クリニックでも以前は、心拡大を有する無症状の症例に対する最も積極的な治療は、ACE阻害薬とコエンザイムQ10でしたが、今後は通常の治療として状況によりピモペンダンの投薬と、プラスαとしてのコエンザイムQ10を紹介させていただきます。
僧帽弁閉鎖不全症の内科的治療(内服薬による治療)の目的は、発咳等の症状を抑制することです。
よって完治、投薬終了はありません。
レントゲン・エコー・特殊血液検査等の検査結果から重症度の判定は可能ですが、検査結果と呼応する症状はありません。
つまり検査結果の重症度から「この症状になるハズだ」は、「無い」です。
症状と正確に呼応する検査方法は存在しないので、「薬は症状により選択され、症状により塩梅」していきます。
犬僧帽弁閉鎖不全症の内科的治療が、徐々に変わってきています。
5年後の標準的治療法はどうなっているのか、獣医師として興味津々です。
ご質問ご相談ご遠慮なくどうぞ
◆関連トピック↓
【HPお知らせ版】
ドン・ペット・クリニックが提案していた僧帽弁閉鎖不全症の治療方針が米国獣医内科学会(ACVIM)で推奨されるようになりました
記2018年2月
【HPお知らせ版】
犬の慢性心不全(犬僧帽弁閉鎖不全症)治療の新しい方向
記2017年10月
【HPお知らせ版】
「犬の慢性心不全(犬僧帽弁閉鎖不全症)の外科手術について」
記2016年9月
【HPお知らせ版】
「心電図検査を始めました、新しい機械を導入=ヒト医療と同じになったよ」
記2015年8月
※「犬の慢性心不全(犬僧帽弁閉鎖不全症)治療の新しい方向(2017,10記)」のupに伴い内容を一部修正加筆予定です
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改訂・犬の心臓に「心雑音=雑音がある」と言われたら(記2017.12月)